セキレイの足音・1

「ボク」は おうちに帰るところでした。

お友だちの あのコと 「また明日」ってさよならして。


表のバス通りを 1本右にはいった ちょっと細めの 住宅街の道。

ぷらぷらと 歩くボクの ななめちょっと前に ふぁささっと

ちいさな鳥が舞い降りました。


頭が黒くて 羽は灰色。

尾っぽあたりは 白とか黒とかまじった模様があります。


その鳥は ててて ててて つつつー と

足音もたてずに すばやく歩いてゆきました。


ボクは その鳥の名前は知らなかったのですが

たぶん それは セキレイ という鳥。


ててて ててて つつつつー ててて

セキレイは とまったり 足早に歩いたり こきざみに 進んでゆきます。


なんだか 面白いな と ボクは思って

驚かせないように そっと セキレイの横にならんで

セキレイと おんなじ速さで

ててて ててて つつつー って 歩いてみました。


セキレイは ボクの気配に 気付いてるのかどうかは わかりませんが

べつだん 気にするふうでもなく また こきざみに

ててて つつつー

していきます。


だから ボクも ゆっくり ゆっくりと

セキレイと 並んで

ててて つつつー

してゆきました。





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猫の温泉・終


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>>> 猫の温泉・5



ぴちょん。


水滴がおちる音で、まゆみさんは目をあけました。

温泉からでてきた さびねこが ぷるる とからだをふりました。

さびねこは ゆっくりと 森の方へとあるきはじめました。


(あ・・・)


と かけそうになった声を まゆみさんは のみこみました。

そのあと なにを言ったらいいのか わからなかったからです。


ふと さびねこはたちどまり ちらり とまゆみさんの方に視線をなげかけました。

声をださずに にゃ と口を動かしました。

そうして またゆっくりと 森のほうへとあるいてゆきます。


まゆみさんは 手をふりました。

緑のかげにきえてゆく さびねこに 手をふりました。

その姿がみえなくなり かすかに 枯草をふむ足音が聞こえなくなっても

まゆみさんは たくさんたくさん 手をふりました。

心のなかで くりかえし つぶやきながら。


大好きだよ。ずっとずっと。大好きだよ。


と。





<猫の温泉・おわり>

 

猫の温泉・5


>>> 猫の温泉・1
>>> 猫の温泉・2
>>> 猫の温泉・3
>>> 猫の温泉・4



わたし 今 にしんのなかにいる。
にしんが見てた わたしを見てる。



にしんの中から にしんの視点で 見ている まゆみさんの瞳に
かつての まゆみさんの さまざまな姿が うつりました。


猫のごはんの 支度をしている まゆみさん。
コップを洗っている まゆみさん。
洗濯物をたたんでいる まゆみさん。
ドライヤーで髪をかわかす まゆみさん。

それらの どの様子を見ているときにも
胸のあたりに なんだか ほわぁっ ほわぁっとした 感触が広がります。



なんだろう この 胸の感じ・・・



それは 言葉では うまく あらわせないのだけれど。

ぽかんとして。

あっけらかんとして。

何にも ないようで。

でも ほんのすこしだけ やわらかい

呼吸のしやすい 空気のような。

かすかに 不思議と

何かに まもられてるような。

ただただ そのものだけを

まっすぐまっすぐ 見ているような。



そうだったの。
にしんは いつも こんなふうに。



目の前の かつてのまゆみさんと 目が合ったような気がしました。

でも にしんの視点で見ている まゆみさんの瞳には
もう たくさんの涙が あふれて あふれて
その視界は ゆらゆらと にじんでしまうのでした。




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猫の温泉・4


>>> 猫の温泉・1
>>> 猫の温泉・2
>>> 猫の温泉・3



まゆみさんは 目をあけました。

すると 目の前に まゆみさん自身が見えました。
目の前のまゆみさんは 湯気のたったマグカップで 何かを飲んでいます。


おそらく あの中身はミルクティー。

だって あのマグカップは ミルクティー用って決めてるから。


そうして 目の前のまゆみさんが 今度は 何かをかじりました。


たぶん あれは ダックワーズ。

ミルクティーにあわせる焼き菓子で 一番すきだから。


目の前の 自分自身が なんとも嬉しそうにしているさまが見えます。


でも なんで?

なんで 私自身が 見えてるの?


とまどいながら まゆみさんは目をとじました。

そして もう一度目をあけると
今度は 目の前のまゆみさんを 見上げている自分に気付きました。


自分のあごの下を見るなんて。


なんだか 不思議なような 笑っちゃうような気持ちになりながら
まゆみさんは 気が付きました。


にしんだ。


目の前のまゆみさんが 視線に気が付いて こちらをみおろしました。


ひざの上の にしんだ。


みおろしているまゆみさんが 目をほそめて 自分の頭をなでました。


これは にしんの 視点なんだ。


身体中に ぶわぁっと あたたかな波が つたわってゆくのが 感じられました。




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猫の温泉・3


>>> 猫の温泉・1
>>> 猫の温泉・2



視線を 感じました。


どきん としながら
まゆみさんは ゆっくりゆっくり さびねこの方をむきました。


さびねこと まゆみさんの 目が あいました。


さびねこは まゆみさんを じっと 見つめていました。


その ちいさな瞳に 光がきらきら うつっているのが見えました。



瞳が きらきらだ。



まゆみさんの胸に ふわんと
やわらかい いとおしいものが ひろがりました。



にしん みたい。



お湯であったまった まゆみさんの全身の細胞。

その 一粒一粒が わきたつみたいに
さわさわわーっと 熱にくるまれてゆくようでした。



きらきらー・・・。



言葉にならない想いでいっぱいになって
まゆみさんは 目を閉じました。


171201

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